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岩波少年文庫この秋復刊した18冊のなかから、気になるものを読んでいます。
ドリトル先生シリーズでおなじみのヒュー・ロフティングのよる児童書。ドリトル先生シリーズ一冊も読んだことないのですが、このお話には、ぐっと惹きつけられました。“秘密”っていうタイトルに弱いんです。
金策に頭を悩ませている父親を助けるため、幼い兄妹のジャイルズとアンは、魔女と噂される老女アグネスに助力をもとめます。アグネスは、二人に、「<ささやき貝>を、もっとも必要とする人にとどけたものはだれでも、莫大な財産がもたらされるであろう」という言葉とともに、美しい巻貝を一つ与えました。その貝は、貝の持ち主のことを誰かが話していると熱くなり、耳にあてるとどんなに離れた場所であってもその話が聞こえるという不思議な「ささやき貝」でした。
二人はこの貝をもっとも必要としている人を探そうと、いろいろ試してみた挙句、王様こそが、貝の持ち主としてふさわしいのではないかと考えます。
つい最近王国を治めるようになったばかりの若い王様に、ジャイルズは命がけで
なんとかこの貝を手渡すチャンスをつかみます。国王は、この貝のおかげで、大変な陰謀を知り、危機を脱することができました。結果ジャイルズには父親を助けるに十分な褒美が贈られ、しかもわずか9歳にして、騎士の地位まで与えられました。
ここまでで、めでたしめでたしと、お話が終わってもよさそうなものなのですが、この物語が素敵なのは、この後さらに続編が続くことなのです。
ジャイルズは特技を生かして王様の「探しもの係」として、お城で王様の側で仕えることになりました。持ち前の観察力と記憶力によって、それに時には「ささやき貝」の力も借りて、とても有能な「探しもの係」として、また、王様の信用の厚い友人として9年を過ごします。いろいろなものを探し出してきたジャイルズですが、今度はとんでもないものを探すよう命じられます。それは、王様との挙式を目前にして姿を消してしまった伯爵令嬢バーバラだったのです。しかもジャイルズは密かにこのバーバラに恋をしてしまっていたというのに・・・・。
子どもたちの冒険譚的な、わくわくドキドキさせられる前編とは趣を変え、後編では王様の苦悩や切ない恋情が扱われ、別種の危機が書かれていて、ますます引きこまれてしまいます。
この物語では、魔法のような、不思議なことが扱われてはいますが、ファンタジーにありがちな魔法とは違う、神秘とでもう言うべき厳かなもののように感じられます。不思議だけれども、不思議じゃない、ただわたしたちが知りえないだけのこととして、書かれているのです。ささやき貝の秘密はあかされぬまま、失われてしまいますが、深遠な秘密を信じる気持ちは、物語の余韻とともに、ずっと心に残りそうです。
精霊や要請は人間の世界を去ったので、もう奇跡はおきないというのでしょうか?しかし、これもまた魔法ーーーそう、ジェフリーがいつもいっていたようにーーー太陽が夕方の海にしずみ、朝の大地にのぼるのも魔法のわざなのです。それがいま、真実に思えるのです。むらさき、バラ色、そして銀ねず色にとうつりかわり、うずめき、まじわるけんらん豪華な光の祭典。神秘の時間、不思議なる物、エルフとゴブリン、霊魔と人魚の魔法のわざ。魔法にかけられた夢のおわりのやすらかな眠りのように、しずかな暗闇にまじりゆく。
これは、魔法のたそがれなのか?おそらく。ただし今日一日だけの。太陽にまたのぼる力があり、人にさがす気力があるかぎり、魔法はけっしてほろびはしない。
岩波少年文庫、創刊60周年ということで、この秋どどんと18冊が復刊されたとのこと、まったくおめでたい話でございます。
中にハウフの童話集、『隊商』がはいっているのがうれしい限りです。
ハウフの童話、単品で読んでもおもしろいものが多いですが、すべての童話集が枠物語になっているので、やっぱりちゃんと一冊の童話集で読みたいところ。枠の物語には、どれも驚く結末が用意されているのも、大きな楽しみです。
そんな結末が特におもしろいのが、この『隊商』だと思います。砂漠を横断中の隊商の商人たちが、休憩時の暇つぶしにさまざまな話を語りあうのですが、その中で一人の商人が語った身の上話の知られざる側面が、最後に明かされ、その感動冷めやらぬうちに、最後の最後にもう一つ、ある事実が明かされるという心憎さ。今にして思えば、予想の範囲内かもしれませんが、子どもの頃にうけたこの衝撃は、私の枠物語好きの原点になっています。
挿話の中には、ちょっと不気味な話がいくつかありますが、中でも怖かったのが、ネタバレになりますが、結末に関わる片腕のない商人の身の上話です。以前は商売の傍ら、医者としても仕事をしていたその商人は、正体不明の人物の依頼で、女性の遺体から首を切断する仕事を引き受けます。ところが遺体のはずのその女性は、実は眠っていただけで、そうとは知らずに、その商人は首を切ってしまうのです。切りつけた瞬間、遺体のはずの女性がカッと目を見開く、そのシーンの恐ろしいことといったら、もう。
ところで、この商人は、ある復讐計画のために騙されて利用されていたのですが、復讐のために医者を欺いて女性を傷つける、同じ手口が、コナン・ドイルの短編小説「サノックス卿夫人の事件」にあります。堂々と不貞を働く妻とその相手に対して、物静かな夫によって行われた鮮やかで恐ろしい復讐の話です。だまされて女性の唇を切除する羽目になる医者こそが不貞の相手で、そのような形で妻の自慢の美貌を奪うことが、夫の復讐なのでした。
岩波文庫のほうもついでに『盗賊の森の一夜』を復刊してくだされまいかなぁ〜。
こちらは枠の話のほうでも、ハラハラさせられる楽しみがあります。