靄靄読書録
もはや本のことしか書いていない……
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2009.02.06 Friday
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靄
説経節―山椒太夫・小栗判官他 (東洋文庫 (243))
説経節―山椒太夫・小栗判官他 (東洋文庫 (243))
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評価:
荒木 繁,山本 吉左右
平凡社
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(1973-01)
平安建都1200年というと、1994年ということでしょうか。その際に記念的に出版された絵本のシリーズ、「京の絵本」というものがあります。平家物語や源氏物語、御伽草子、今昔物語など京都にゆかりのある古典のなかのお話を絵本化したもので、翻案されてはいますが、古典の筋になるべく忠実であるように絵本化されているため、なんだか新鮮で面白いです。
その中の一冊『安寿と厨子王』を読んだのですが、森鴎外の小説「山椒太夫」に比べて、少し残忍な内容になっていて驚きました。この絵本では、かなり押えた表現にとどめられているようなので、もとになっている説経節の「山椒太夫」の実際の酷さぶりを確認してみたくなり、手にしたのがこの本です。
「山椒太夫」のほかに、若くして出家した父親と、その父を追う息子石童丸の話「刈萱」、義母の呪いで失明し、病に苦しめられ、家からも追い出された信徳丸と、彼を助ける恋人乙姫の話「信徳丸」、義父義兄に毒殺されるも家臣のおかげで甦り、もとの体を取り戻して復讐を果たす小栗と、宿の下女に身を落とし、そうとは知らずに夫を助けた妻照手の話「小栗判官」、狐が美女に化けて恩人の妻になるも、本当の姿を知られたために、幼い息子を残して去ってしまう、その息子こそ安倍晴明で、成長して芦屋道満と競い合う「信太妻」、これら説経節を代表する五説経と呼ばれるものに加えて、義母の求愛を拒絶したために逆境に陥る愛護の話「愛護若」が収められています。「できるだけ多くの人に読んでもらい、そのよさを知ってもらう」ということが、この書の目的であるだけあって、予想に反してかなり読みやすいです。しかも、さすが大衆芸能として磨かれてきただけあって、どれも非常に面白かったです。
さて、件の「山椒太夫」ですが、もう酷いなんてものではございません。辛酸をなめてなめてなめつくしたあげくの、ひっどい復讐の物語なのです。
奥州から、筑紫に流された父親の罪の許しを願い出るため、都へ向かう、厨子王とその姉安寿、そして母親と乳母のうわたきの4人は、越後の直井の浦で、人身売買を生業とする悪人、山岡太夫に騙されて、親子ひきはなされて売り飛ばされてしまいます。うわたきはその際、入水自殺してしまいますが、母親は蝦夷が島に売られ、なんの仕事もできないということで、手足の筋を切られて、粟の鳥追いをさせられます。一方の安寿と厨子王は、丹後の由良の湊に住む、山椒太夫というものに買い取られます。
この山椒太夫のもとで、さんざん酷い目にあった挙句、安寿は、厨子王一人を逃亡させるのですが、そのために、酷い拷問にかけられ、死亡してしまいます。
この拷問描写が酷いんです(それ以前も酷いですが)。長梯子に括り付けられての水責め、湯責めにはじまり、三又の錐でもって、膝の皿を「からりからりと揉うで問う」んです。この非常に痛そうな描写、いまいちどういう状況かわからなかったのですが、古浄瑠璃の「午王の姫」において、午王の姫が同様の拷問を受けており、挿絵が添えられていたため、よくよくわかってしまいました。このような拷問描写の語りには、そこそこ定型があったのか、義経を逃した午王の姫にくわえられた拷問描写は、安寿のそれとよく似ています。安寿のほうは、このあとの火責めで命を落としてしまうところを、午王の姫は、もっとがんばったため、さらに酷い目にあっていますが。水責め、湯責め、節責め、釘板歩き、爪剥し、蛇責め、火責め、鉄鎖の首締め・・・。
そんなわけで、無事都へたどり着き、立身出世をはたした厨子王によって行われる復讐は、それら残虐な行為にふさわしい、これまた酷いものなのです。所領を与えると偽って、小国と大国を選ばせ、欲張って大国を選んだところへ、大きな黄泉の国をあたえるという展開は、これまた「牛王の姫」にもありますところ。その黄泉路へおくる方法が、斬首なのですが、ただ刀でスパンと切り落としたりはしません。山椒太夫の息子三郎の手で、竹のこぎりによって切り落とされるのです。切れ味が悪いものですから、ひくこと106回にして、ようやく首が落ちます。その三郎のほうは、往来をゆくものたちの手で同じく竹のこぎりによって、七日七晩かかって首を切られます。荒簾に巻かれて水に沈められた山岡太夫はまだいい方かもしれません。
この話の中で、気になったのは、太夫のもとから一人脱走した厨子王が、国分寺の僧侶の背負う籠の中に潜んで都へ向かうも、到着したときには腰が立たなくなっており、権現寺から南北天王寺まで土車に載せられ、人に引かれて行くということです。「小栗判官」でも、毒殺され、埋葬された状態から、餓鬼阿弥として甦った小栗が、土車にのせられて熊野へ向かいますが、この土車、”主人公の境遇を変える(再生する)場所へと無事に運んで行く”わけですから、昔話におけるうつろ船と同じ働きをしているように思います。
ライ病者やいざりの乞食の乗り物とであるという点から、落ちに落ちた登場人物の境遇を表すものとしてもそうですが、その働きからしても、とっても重要なアイテムだと思うのですが、上記の絵本もさることながら、「山椒太夫」の子供向け翻案作品(森鴎外の小説で用いられていないせい?)では全く採用されていないんじゃないでしょうか。
ところで、「小栗判官」において、照手姫が閉じ込められ流された輿も、うつろ船っぽいですが、まさにうつろ船が登場する説経節があります。「刈萱」において、妊娠中に家を捨て出家してしまった夫に、生まれた子供である石童丸を会わせようと、女人禁制の高野山に登ろうとする女性を留めるために語られた話の中に登場するのです。高野山の開祖、弘法大師の出生譚なのですが、これがなんだかびっくりな内容。弘法大師の母親はもともと唐の帝の娘で、他国の帝に嫁がされましたが、「三国一の醜女」と言われて突っ返されたため、父親の帝によってうつろ舟に閉じ込められ、海に流されてしまうのです。そしてその後、日本に流れ着き、とうしん太夫というものに助けられます。あこう御前と呼ばれるこの女性、さすが三国一の醜女なだけあってか、言い寄ってくる男性がいないため、太陽の子供を産むことを思いつき、高下駄をはき、頭上に水を入れた桶をのせた状態で、屋根の上に何日も立ち続け、とうとう黄金の魚が身のうちに入るところを夢想して、無事懐妊し、男児をもうけます。黄金の魚にちなんで、その子の名前を金魚とつけますが、この金魚がのちの空海なのです。って、こんな話、初めて聞いた。
「うつろ(ぼ)船(に類するもの)にのせて海(や川)に流す」というのは、『日本猟奇史』を読んで以来非常に気になるモチーフなのですが、各地にいろいろな話が存在するようです。『ペンタメローネ』において一日目に語られるお話「ペルオント」では、怠け者で醜い男が、ひょんなことから魔力を得て、自分を笑った王女を懐妊させ、その罪で王女と生まれた子供とともに大樽につめられて流されてしまいます。同様の話が、カルヴィーノ編纂の「イタリア民話集」にもあって、こちらはとっても異様、魔女の畑のパセリを盗み食いした女が、罰として生まれた子供をまっぷたつにされ、半分を魔女に取られてしまいます。このまっぷたつの男の子が、大鰻を助けて魔力を得、自分の姿を笑った王女を懐妊させて、その結果王女と生まれた子供とともに大樽につめられて流されます。どちらも魔法の力で無事助かり、男は美しく完全な姿を得て(一種の再生)、王にも認められる結末です。
不義の子を身ごもったことで流されるのはまだしも、日本の昔話には、屁をこいたという理由で流されてしまうことも。女性が放屁することは、そんなにいけないことなのでしょうか。屁こき嫁級のスゴイ屁ならまだしも、はずみで出ちゃったようなものは許そうよ!『宇治拾遺物語』の中にも、「藤大納言忠家物言ふ女放屁の事」という、忠家が、言い寄った女性といざことに及ぼうとしたときに高らかに放屁されて出家しそうになる話がありますが、そんなことで萎えるようなら出家してしまえばいいと思いますよ!
それはさておき、グリム童話や日本の昔話にもある「手なし娘」ですが、『ペンタメローネ』の中の話では、王である兄の求婚を拒絶し、手を切除したペンタは、箱に閉じ込められて海に流され、のちに夫となる他国の王に拾い上げられます。
川や海に流されるパターンは、ある予言をきっかけとする話も多いようです。ギリシャ神話のペルセウスが母親のダナエとともに箱詰めにされて流されるのは、ダナエの父が、”娘の子供にいつか殺される”という予言を受けたからですし、アルバニアに伝わる「領主と息子」という話では、ある男児の誕生時に、将来領主の娘と結婚して、領主を殺すという予言が告げられたため、それを知った領主によって川に流されます。イギリスの昔話「魚と指輪」では、ある貧しい娘が息子の結婚相手になるだろうという予言のために、領主がまだ赤ん坊のその娘を川に流してしまいます。
水に流されてやってきた子供が、只者ではないという話もまた多そう。
話は流れに流れてしまいましたが、ありがたいことに一冊で5説経が一気に読めてしまうというこの本、なんと現在絶版中なのです。それはない、それはないのですが、できることならこの本、東洋文庫として再版ではなく、平凡社新書にしていただけると入手しやすくてとってもありがたいです!「できるだけ多くの人に読んでもらい、そのよさを知ってもらう」というこの書の目的にも大いにかなうと思うのですが。
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