2018.03.25 Sunday
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ひとつの教室の中に、共有しているひとつの時間の中に、そしてこの瞬間
の中にさえ、これだけちがったこころが寄り集まっているのだ。束ねては
ならない、けっして。
*
ひとつとして同じ哀しみはない。
ひとつとして同じいらだちはない。
ひとつとして同じ迷いはない。
*
目を閉じて見えないものを見るのはむずかしい。ほんとうに自分が見たい
ものはなんなのかを過たずにいることは、見えないものを見るのと同じく
らいむずかしい。
ぼくは白い手袋をはめていた。両親と暮らしていた。でも、
小さな子どもではなかった。三十七歳だった。下唇が腫れ
ていた。白い手袋をはめていたが、召使いではなかった。
ブラスバンドの奏者でも、ウェイターでも、手品師でもな
かった。大事なものを集めた博物館の学芸員だった。白い
手袋をはめていたのは、博物館にある986点の展示物を損
なってはならなかったからだ。白い手袋をはめていたのは、
素手でものに触れてはいけなかったからだ。自分の手を見
てはいけなかったからだ。
木は、上等の木は、あらしの中でもたおれないもの