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2016.06.07 Tuesday
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靄
サーバン『人形つくり』
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読書
国書刊行会の新しい叢書、ドーキー・アーカイヴの2冊を読みました。L・P・デイヴィス『虚構の男』は、1960年代の田舎町に棲む作家の物語が、その様相を一転も二転も三転もさせる、一種のディストピア小説であり、フランケンシュタイン・コンプレックス的な作品でした。謎とハラハラさせられる展開に満ちた面白い物語です。
もう一冊のサーバン『人形作り』は、一言で言うと“たまらん”。
「リングストーンズ」と「人形つくり」、魔的で幻想的な描写に溢れた二つの中編小説が収められています。一作目の「リングストーンズ」は、荒野の中の人里離れた屋敷で夏休みの間家庭教師として雇われた女学生の手記という体裁。手記、荒地、古い屋敷、ガヴァネス、謎めいて美しい子どもたち、それだけでも十分すぎるほどですが、さらに屋敷の近くには巨石の遺跡、ストーンサークルまで登場します、もうそんな要素だけでお腹いっぱい。そしてもちろん、これらの単語から期待される通りの怪奇と神秘に彩られた魅力的な物語が展開します。物語の書かれた1950年代と同時代の設定のようですが、この物語で描かれる、人間を拒む荒れ地という恐ろしい自然によって閉ざされた太古の楽園のような場所での浮世離れした暮らしからは、時代の感覚は失われています。さらに、女学生ダフネが時計を失ったように、この場所はこの世の時からも切り離されています。そんな異界的な世界からの逃れがたさと、徐々に決定的になってゆく拘束の恐怖にぞっとさせられるとともに、ある種の甘美さを持って描かれる支配と従属の関係に、ゾクゾクもさせられる、非常に魅惑的で恐ろしい物語でした。
「人形つくり」は、囲繞と束縛のイメージがさらに溢れる作品です。寄宿制の女学校の生徒クレアが、学校に隣接する屋敷に住む青年ニールに心惹かれ、囚われてゆく物語。塀という物理的な囲いの中の、谷と屋敷で閉ざされたミニチュアの森、そこに置かれる人形という小さな器、主人公クレアはニールに対する愛情とともに魔術によっても囚われています。しかも、学校生活や将来に対し、魅力や希望を感じられなかったクレアにとって、魔的な世界にとらわれ服従することは、自由と悦びでもあるのです。
どちらの物語も、囚われた世界からの逃亡が試みられるため、ただ幻想的なだけでなない、起伏のある優れたエンターテイメント作品にもなっています。美しく、恐ろしく、面白い、それを一言で言うと、“たまらん”なのです。
ずっとずっと読み続けていたいくらい魅力的な作品ですが、時の束縛を逃れた美の世界は、束の間覗くくらいにしないと危険、危険。それはわかっているのですが、まだまだもう少しサーバンの世界に浸っていたいので、『角笛の音の響くとき』も読んでみようかなと思います。
人形つくり (ドーキー・アーカイヴ)
人形つくり (ドーキー・アー...の他のレビューをみる»
評価:
サーバン
国書刊行会
¥ 2,592
(2016-05-27)
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