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2016.05.27 Friday
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靄
『犬になった王子』〜「穀物盗み」話いろいろ
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読書
『犬になった王子』、チベットに伝わる民話をもとにした絵本を読みました。穀物のない国の王子が、蛇王のもとから穀物の種を盗みだしたことで、犬に姿を変えられてしまうも、ある女性の愛によって元の姿に戻ることができ、無事国で穀物栽培を始めることに成功する話。
宮崎駿の『シュナの旅』のもとになった作品ということで知られているそうですが、知らなかった上に『シュナの旅』も未読でしたので、ついでに読んでみました。貧しい王国の王子が、豊かな実りをもたらす穀物の種を求めて異界へ旅し、種を盗み出すという筋は同じです。『シュナの旅』では、穀物の種は神人のところにあることになっています。そして、自ら耕作しなくなった人間が、人間を狩り、多くの人命と交換に神人から豊かな食料を得ているいびつな世界が描かれています。王子シュナは、異界からなんとか生きた麦の実を持ち出すことに成功したものの、かわりに記憶を失ってしまいます。しかし、かつて人買いから救った少女テアの助けでなんとか自分を取り戻し、麦の栽培に成功して、故郷へ戻るという展開。神人という存在や、それによる生きた人間を材料にした穀物栽培のシステムなどは、魔術的というよりはSF的な雰囲気です。とはいえ、生きた人間からできた(?)特別な水によって栽培された麦穂がたちまち成長することなどは、播磨国風土記の玉津日女命が生きた鹿の腹を割いて出した血に種を蒔いて一夜で苗にしたエピソードにつながるものを感じます。民話、神話、SFが一体となったような、不思議な物語でした。
シュナは種を持ち出したせいで、自分を失ってしまいましたが、もととなった『犬になった王子』は、冒頭に書いたとおり、犬にされています。ここで疑問に思ったのが、なぜ犬なのか??ということ。中国などの「穀物盗み」の話では犬が活躍することが多いそうですので、これもその一つということでしょうか。この物語では王子→犬→王子となっていますが、犬を王子の化身としなければ、犬祖譚になりそう。が、犬と穀物のつながりはいまいちわからない…。犬の尾が穀物の穂の形状に似ているからなんて説もあるそうですが、『世界昔話ハンドブック』では、「原始的な考えでは犬は早くから人間の信仰や崇拝の対象となっていた。苗族や瑶族などの民族は歴史上そのトーテムであった」など、犬が古くから特別な存在であったことや、穀物盗みにおいて犬が活躍することについては、「犬は比較的早く人間に馴化された動物の一つであり、朝晩生活をともにして人間に大きな貢献をしている。とくに農業や牧畜において大きな助けとなっているため、人々は伝説や昔話の中で犬の人類に対する恩恵をこのように描き賛美する」などといったことが書かれていました。
東〜北日本では狐が、中国や天竺、鬼の国などから穀物を盗み出してきたり、灌漑用の水を引いてくれたりする話が存在するそうですが、日本で田の神とされる狐が、こういう場面で活躍するのは理解できます。日本の「穀物盗み」話にも犬は登場しますが、むしろ穀物盗みを妨害する存在としてです。西〜南日本に分布するという弘法大師による麦盗みの話、中国に留学中の弘法大師が、日本にはまだなかった麦を見て、持ち出し禁止のそれをなんとか日本にも持ち帰ろうと、足に傷をつけてその中に入れたり、ふんどしのなかに入れたり、肛門の中に入れたりとパターンは色々ですが、こっそり持ち出そうとするも、その匂いに気づいた犬に吠えられてしまいます。しかし、盗みには気づかれず、犬は間違って吠えたとして殺されてしまい、大師は帰国後、哀れな犬を祀っただとか、麦播きは戌の日にするようになったなどなど。とはいえ、犬が祀られたり、戌の日に播種する事実が先にあって、後から弘法大師の話がくっついたように思えなくもなく、日本でも犬と穀物は関わり深いのかも。
ところで、犬以上に気になってくるのが、肛門に隠して盗み出すってエピソード。有名な高僧がそんなことしちゃうというのが、すごくウケるのかもとも思いますが、やっぱり肛門から食べ物を出していた大気都比売や保食神からの伝統なのかしら。
玄奘三蔵に関する話で、経典を求めて訪れたインドで大根を見、これも持ち帰ろうとお供の悟空に渡したところ、すでに経典で手一杯だった悟空は仕方なく肛門にこれをさして持ち帰ったなんて話もあるそう。三蔵様、絶対持てないと分かってて、大根を渡して肛門にさすとこ見てたなんて、なんというドS。
肛門の話があるとなると、ありそうなのが、性器の中に入れて隠すとういう話。なぜか台湾に多く見られるそう。女性が盗んだ話ばかりかと思いきや、結構男性もあって驚き。どこに?と思ったら、包皮の下に隠してとのこと。小豆ぐらいまでなら入りそうなのかしら??ポリネシアには、タロ芋が陰茎のなかに隠されてたなんて話もあるんだとか。ドイツの民俗学者イエンゼンによれば、さすがにそれは無理だから、おそらくポリネシアに移る以前は穀物栽培が行われていたものの、それが移動によって失われ、物語のほうも土地にあわせて穀物からイモ類に変化したのではとのこと。
色々な穀物盗みの話があるのを見ると、穀物は自然から優しく与えられるものじゃなくて、盗み出すように苦労して得るものなのだなと思います。
犬になった王子――チベットの民話
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2018.03.25 Sunday
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コメント
私の作画絵本『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)をご覧いただき誠に有難うございました。今後とも後藤 仁 作品をよろしくお願い申し上げます。
日本画家・絵本画家 後藤 仁
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後藤 仁
| 2016/05/28 10:05 PM |
コメントありがとうございます。子どもと一緒にハラハラしながら楽しく読ませていただきました。
| 靄 | 2016/05/28 11:56 PM |
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