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金原氏による英米怪奇小説のアンソロジー。岩波少年文庫の一冊ですから、お若い方々を対象として編まれているのでしょうが、大人だって十二分に楽しめる充実した恐怖がつまっています。扱われる恐怖も多様で、ジワジワくる恐怖から、はっとと驚かされるもの、恐怖以上に胸をつかれるものまで揃っています。優良な作品ぞろいなだけに、既刊のアンソロジーに収録されたことのある作品がいっぱいなのだそうですが、私は未読がいっぱいなのでノープロブレム。しかも全作金原氏による新訳(しかもエドガーアラン・ポーの作品にいたっては翻案までされてしまっています)というのも魅力的。
はっと驚く系の話では、既読でオチも覚えていましたが、サキの「開け放たれた窓」が大好きです。初めて読んだときは悔しくて仕方なかったですが、今やこのうまさに感嘆するばかりです。でも、その鮮やかなオチゆえに怖い話ではありません。かたや、フレドリック・ブラウンの「うしろから声が」は、はっとさせられるお話であって、しかもとっても怖いです。はっとさせられうろたえているうちに、バッサリと恐ろしいところで幕が引かれて呆然というか、ガクブルです。
このアンソロジーの中での一番怖い話は、「ポドロ島」ではないでしょうか。「あれ」って何なのか、「あれ」って実在したのか、解釈は色々なのでしょうが、どう解釈しても怖くって仕方がないです。
とても短いお話ですが、ロアルド・ダールの「お願い」も大好きです。カーペットの模様を危険に見立てて子どもが遊んでいるだけのお話であるにもかかわらず、それが非常に恐ろしい内容になっております。是非とも短編集を読んでみたいです。
レノックス・ロビンソンの「顔」は、崖下の水面に現れる美しい顔に心奪われた男の物語、昔話的な切なさと怖さを併せ持つ儚く美しいお話で、これも好きです。
ロード・ダンセイニの「谷間の幽霊」は、編者が怖くないと言い切っているとおりのお話ですが、「かつてはいたのだ」という幽霊のかすかなため息、ダンセイニ節がうれしいではないですか。
他には、エドガー・アラン・ポーの作品の翻案「こまっちゃった」、耐え難い夏の夏さのなかで読むべき表題作、W.H.ハ−ヴィーの「八月の暑さの中で」、リチャード・ミドルトンのなんとも不思議な話「ブライトンへいく途中で」、幽霊よりも怖いものを見ちゃった話、E.M.デラフィールドの「もどってきたソフィー・メイソン」、そのデパートにはないはずの13階で買い物をした男の話、フランク・グルーバーの「13階」、お約束的なゾッとするオチのついたというか、タイトルそのまんまなジェイムズ・レイヴァーの「だれかが呼んだ」、そして私としては「ポドロ島」の次に怖かったローズマリー・ティンパリの「ハリー」。切ない話としても読めるのでしょうが、奪われる側の視点で書かれているので、私はただひたすら怖かったです。
時節にあったこのような気の利いた新刊が出るあたり、岩波少年文庫素晴らしいです。