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2007.04.12 Thursday
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靄
着る女
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筒井ともみ
マガジンハウス
衣服というのは、もう一人の自分、自分の鏡のようなものに思われます。さらに、自分の纏う衣服について何か語ることは、自分を語ることであるかのように思われます。”鏡のようなもの”と書くのは、実際のところ、衣服は”鏡である”とすることで、そこに映るはずの自分があると思えるものじゃないかと思うからで、”自分を語ることであるかのように”と書くのは、実際の鏡像ではなく、映っているはずの自分、架空の鏡像について語ることにしかならないと思うからです。
映すものとして衣服を扱うことで、映されるものがあるかのように見せる技法のことを、ひょっとしたら”おしゃれ”というのかもしれませんが、作家などはそのような技法を駆使して人物の姿を描き出していることがあるのではないでしょうか。
『着る女』と題されたこのエッセイ集は、脚本家にして小説家でもある著者が、赤ん坊の頃の襁褓から、母親の手作り服や手編みのセーター、オーダーメイドのコートやブーツ、ストッキングに靴下に下着、コム・デ・ギャルソン、イッセイ・ミヤケ、ヨージ・ヤマモトなどのデザイナーズ衣料まで、生まれてからこれまで身につけてきたさまざまな衣服や雑貨について書かれたものですが、同時に著者自身の来し方について書かれたものでもあります。図らずもそうなったわけではなく、衣服語りと自分語りの相性の良さを十全に活かして、著者自身のことを衣服等を通して書いた作品なのだと思います。脚本家にして小説家、つまりは作家でいらっしゃるだけあって、映すものとしての衣服の扱いは非常に巧みで、どのエッセイも平坦な雑感に終わることなく、著者自身である一人の女性の姿だけでなく、彼女に関わる人々の姿も活き活きと立ち現れた、ちょっと切なく、ちょっと素敵な”物語”になっています。
その巧みさは、もちろん本業である脚本の仕事でも活かされており、エッセイ中で紹介されている、向田邦子さんの作品を脚本化した際に挿入したという、原作にないシーンなど見事です。衣服ではなく口紅にまつわるものですが、化粧もまた装いの一種であり、それによってしっかり女性像が浮かび上がらされ、母娘の絆までも描き出されています。
そのように原作を活かしつつも新たな創意を加える脚本の仕事のことを、このエッセイでは、洋服などの「お直し」に喩えられていましたが、その「お直し」を”仮死状態にあったものの命を蘇らせる聖なる祝祭”として捉えていらっしゃるのが印象的でした。素材への愛をこめた”聖なる祝祭”。おそらくこの方、とてもいい仕事をされているのではないかと思われ、今まで、脚本家に注目して何かを観たことなどなかったのですが、いままで手がけてこられた作品はもとより、次に脚本を書かれるという、梨木香歩さんの『西の魔女が死んだ』を原作とする映画を是非観てみたくなりました。
着る女
筒井ともみ
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